遺伝子組み換えの新規承認は、TPPでどうなる!?


TPPの中で遺伝子組み換えに関連する章は、第7章SPS(衛生植物検疫)や、第8章TBT(貿易の技術的障壁)ですが、第2章市場アクセスにも関連する記述があります。
関連する部分の英文全文をFacebookグループ「TPPって何?」管理人のまつだよしこさんが仮訳してくれたので、ご紹介します。
訳の後には簡単な解説を付けましたので、お読みください。

※訳文に出てくる「現代のバイオテクノロジー産品」とは遺伝子組み換え生物のことです。主には植物ですが、最近アメリカで承認された遺伝子組み換えサケなども入るかと思います。

Young female researcher looking into a microscope and writing notes at laboratory

@Yuri Arcurs-Fotolia.com

仮訳ここから~~~~~~~~~~~~~~~~~

第2章市場アクセス第29条 現代のバイオテクノロジー産品の貿易

1. 締約国は、透明性、協力と現代のバイオテクノロジー産品の貿易に関連する情報を交換することの重要性を確認する。

2. この章の何も締約国に対しWTO協定または本協定の他の章に基づく参加国の権利と義務に沿った措置を採用することを妨げない。

3. この章の何も締約国がその域内における現代のバイオテクノロジー産品の管理に対する法律、規制及び政策の採用や修正を求めない。

4. 法律、規制及び政策において利用可能となった場合は、以下のことを公開しなければならない:

(a) 現代のバイオテクノロジー産品の承認申請を完了させるために必要な書類の要件
(b) 現代のバイオテクノロジー産品の承認につながる危険性又は安全性評価の概要
(c) 単一または複数の、その地域で認可されている現代のバイオテクノロジー植物産品の一覧表

5. それぞれの締約国は遺伝子組み換え農作物の微量混入(LLP) 13に関する事案が発生した際に情報共有のための連絡先を特定しなければならない。

6. LLPの発生に対処するため、そして将来のLLPの発生を防止する観点から、輸入締約国は、輸出締約国の要請に応じて、可能な場合、その法律、規制、政策の範囲で:

(a) 輸出国が特定の現代のバイオテクノロジー植物産品の承認に関連して実施した危険性又は安全性評価の概要があれば提供する;
(b) 輸出締約国が知らされている場合、現代のバイオテクノロジー植物産品の承認を受け、以下に挙げる物を所有していると締約国が信じる自国域内にある機関の連絡先を提供する;
(i) 貨物における微量な現代のバイオテクノロジー植物産品の検出のための既存の有効な検出方法;
(ii) LLP発生の検出に必要な任意の参考見本;
(iii) 輸入締約国が危険性又は安全性評価を行う際に使用可能な関連情報、あるいは食品安全評価が適切な場合、「コーデックス組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン」の附属書3(CAC/ GL45-2003)に関連する情報

(c)機関へ2(b)で述べられた情報を輸入締約国との共有を奨励する。

7. LLP発生時に、輸入締約国は法律、規制、政策に従い以下のことをしなければならない:

(a) 輸入者又は輸入者の代理人に、輸入締結国がLLP発生と、輸入者が求められる輸入締結国がLLP発生が確認された貨物の処分を決定するための条件に関するあらゆる追加情報を伝達;
(b) 利用可能な場合に、輸入締約国がLLP発生に関連して実施する危険や安全性評価の概要を輸出締約国に提供
(c) LLPの発生に対処するために適用される措置14が国内の法律、規制、ポリシーとの整合性を達成するために適切であることを確実にする。

8. LLPの発生から貿易の混乱の可能性を低減するため:

(a) 各輸出締約国は、国内の法律、規制、政策に則り、現代のバイオテクノロジー植物および植物産品の技術開発者に承認の申請を奨励する努力をしなければならない。
(b) 現代のバイオテクノロジー由来の植物や植物産品を承認する締約国は以下の項目について努力しなければならない:

(i) 現代のバイオテクノロジー植物および植物産品の承認申請の通年の提出と調査を許可すること
(ii) 現代のバイオテクノロジー植物や植物産品の新規承認に関し、締結国間の連絡を向上させること。

9. 締約国は、ここに現代のバイオテクノロジー産品に関する貿易関連事項に関する情報交換と協力のため、農産物貿易委員会(ワーキンググループ)の下に、作業部会を設立する。作業部会は、農産物貿易委員会に書面による1名ないし複数の代表として参加することを通知した、全ての締結国の代表により構成されなければならない。

10. 作業部会は以下の目的のため公開討論会を開かなければならない:

(a) 締約国の法律、規制、政策に従い、既存又は提案された国内法、規制、政策を含む現代のバイオテクノロジー産品に関する情報交換
(b) 現代のバイオテクノロジー産品の貿易に関し、相互の利益がある場合の二締結国間または多締結国間の更なる協力の促進

11. 作業部会は実際に会うか、その他作業部会に名前を提出した締結国間で相互に決定された任意の方法で会合を開いても良い。

脚注:
13.この章において、LLPの発生とは不注意による植物や植物産品の薬用や医療品用植物又は植物産品を除く植物又は植物産品貨物への少なくとも締結国のうち一各国以上で承認されているが、輸入締結国で承認されていないrDNA植物原料で、食糧として承認されている場合は「コーデックス組換えDNA植物由来食品の安全性評価の実施 に関するガイドライン」に基づく食品安全評価により承認された物の微量混入を指す。

14.この段落において、「措置」は罰則を含まない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~仮訳終わり

≪参考≫
・遺伝子組換え農作物の微量混入(LLP:Low Level Presence)について~OECD文書の公表について~(農林水産省HP)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/llp_1.html

~~~~~~~~~~~~~ここから解説です~~~~~~~~~~~

ポイントをわかりやすい言葉に直すと、
「輸入国で未承認の遺伝子組み換え作物が微量でも混入していることがわかると、そこで輸入がストップしてしまう。そのような「混乱」を避けるため(=「8.LLPの発生から貿易の混乱の可能性を低減するため」)には、輸出国で承認済みの遺伝子組み換え作物は、輸入国でも早く承認してほしい。そのために、さまざまな策を施すように。」ということでしょう。

「8.b-i.承認申請の通年の提出と調査を許可すること」
というのは申請は1年に1回とか2回とかに限っている国があるということでしょうが、これは日本以外の国でしょう。

ちなみに、日本で承認された遺伝子組み換え作物の品種は既にアメリカ以上に多いというのが現状ですので、このLLP(未承認遺伝子組み換え作物の微量混入)が日米間で実際に起こる可能性はあまりないでしょう(それはそれで悲しいことですが)。

「8.b-ii.新規承認に関し締結国間の連絡を向上させること」という一節は、一国で承認されたものは自動的に他国でも承認される、というふうにエスカレートして可能性を感じさせます。

9.~11.で触れられている「作業部会」なるものが、その承認を担うようになっていく可能性があります。各国の厚労省や農水省の権限が奪われていく恐ろしさを感じさせます。

また、訳者のよしこさんも指摘されていますが、輸入国にいろいろな努力を要求しながら、微量混入があった場合の輸出国の責任を問うような文言はありません。
遺伝子組み換え作物をどんどん承認しろ、輸入しろ、というような一方的な態度が根底に感じられる内容となっています。