◆セラリーニ教授らの実験
頭と同じくらい巨大な腫瘍のできたネズミ。2012年9月、フランス、カーン大学のセラリーニ教授らの研究チームが発表した実験結果は、世界に衝撃を与えた。これは市場に広く出回っている除草剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシ(NK603)をねずみに食べさせるというもので、実験に使われたねずみは全部で200匹。ねずみの寿命に相当する2年間の歳月をかけて行われた綿密な実験だ。
ねずみは下の図のように、10のグループに分けられた。
A群~C群を試験群、比較対象の基準となるD群を対照群と呼ぶ。
GM作物の大半は「除草剤耐性」で、大量の除草剤をかけて栽培される。そのため、なにか健康に悪影響が出た場合でも、それが除草剤の影響なのか、それともGM技術そのものの影響なのか、ということがはっきりしにくい。それを見極めるために、上のような細かなグループ分けが行われたんだ。
そしてねずみはどうなったか、というのを示すのが、一番上の写真だ。
結果は両方ともクロ。つまり、除草剤も健康に悪いし、除草剤をかけないで育てた場合でも、GM作物は健康に悪い、ということがはっきりした。
GMコーンや除草剤の割合による違いはほとんどみられなかったという。ちなみに、除草剤の濃度の一番低いものは50ng/ℓで、これはフランスで水道水に残留が認められる基準の範囲内だから、除草剤の悪影響もかなりのものだということがわかる。
実験の結果、遺伝子組み換えの餌を食べた雌は、その多くが乳がんなどの腫瘍にかかることがわかった。実験群の雌の5割~8割に腫瘍ができ、対照群の3割とは明らかな差が認められたんだ。試験群の腫瘍は対照群よりも2~3倍も大きかった。しかも腫瘍ができる時期も違っていた。対照群に腫瘍ができるのは23~24か月、つまり人間でいえば80歳くらいの最晩年であるのに対し、試験群では、4か月目頃から既に腫瘍が現れはじめ、11~12ヶ月目になると爆発的に増える。これは人間だったら35~40歳の若さだ。つまり、遺伝子組み換えトウモロコシを食べると、若くして腫瘍になる確率が高まる、ということだ。
また、この実験の結果、ねずみの雄では、腎臓と肝臓に障害が出る場合が多いこともわかった。試験群では、肝臓のうっ血や壊死が、対照群と比べ2.5~5.5倍も多く、また重度の腎臓障害も1.3~2.3倍現われたという。
肝臓と腎臓というのは両方とも解毒器官だ。何らかの毒が遺伝子組み換えトウモロコシに混じっているのかもしれないね。
また、遺伝子組み換えの餌を食べると、寿命が短くなることもわかった。対照群の平均寿命は雄で624日、雌で701日。この平均寿命に達する前に死んだのは、対照群では雄20%、雌30%しかいなかったのに対し、試験群では雄50%、雌70%と、ずっと多かったんだ。
この実験は外国では大きく報道されて大問題になった。遺伝子組み換え推進派はこの結果の否定にやっきになっているが、セラリーニ教授らは理路整然とそれに反論しているよ。
参考資料: 「マウスの長期実験でGMトウモロコシと発がん性に関連、仏政府が調査要請」やすだせつこ.com
GMO Retraction Sparks Retribution
◆イリーナ・エルマコヴァ博士の実験
ねずみの赤ちゃん半数が死亡…。ロシアのイリーナ・エルマコヴァ博士はモンサントの遺伝子組み換え大豆(Mon40-3-2)をねずみに食べさせる実験を行い、2006年1月に日本の学会で報告した。実験では、ねずみは以下の3つのグループに分けられた。
A群:通常のラット用の餌に、遺伝子組み換え大豆の粉末を1日当たり5~7g混ぜて与えた。
B群:通常のラット用の餌、非遺伝子組み換え大豆の粉末を1日当たり5~7g混ぜて与えた。
C群:通常のラット用の餌だけを与えた。
ねずみが妊娠する2週間前からこれらの餌を与えはじめ、妊娠中も、授乳中も同じ餌を与え続ける。さらにその産まれ子どもにも同様の餌を与える。そして、その子どもたちがどうなるか、生育状態を観察したところ、A群のねずみは明らかに、発育の悪いものが多かったという。
生後2週間で体重が20g以下のものが、B・C群では6%に過ぎないのに、A群では36%とはるかに多く観察された。写真でもA群のねずみは、1日早く生まれているのに、C群のねずみよりずっと小さい。
しかもおそろしいことに、A群のねずみの赤ちゃんはどんどんと死んでいくのだった。
生後3週間までの新生児死亡率は
A群:45匹中25匹死亡……55.6%
B群:33匹中3匹死亡……9%
C群: 44匹中3匹死亡……6.8%
この大豆は遺伝子組み換え大豆としてもっともポピュラーな品種だ。それを食べて、こんなことになるなんて、おそろしいことだね。
この実験は世界に衝撃を与えた。その後、同じ条件で実験をやっても同じ結果にならない、などとこの実験を批判する連中も出た。が、それは遺伝子組み換え作物自体が不安定であるせいだ、と説明する科学者もいる。
遺伝子組換え作物では、遺伝子の働きが不安定なので、意図したのとは違う配列に変化してしまうことがあるようだ。そこから意図していない新しいたん白質が生み出される危険があり、おなじ品種の作物でも、成分にばらつきが出る可能性がある。
遺伝子組み換え技術は、人類がまだコントロールしきれない技術だと考えたほうがいいだろう。
参考資料:「遺伝子組み換え大豆で重大影響! ラットの新生児の半数が死亡」倉形正則(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン)
「遺伝子組み換え大豆は赤ちゃんを殺す?」ジェフリー・M・スミス
◆トリプトファン事件
遺伝子組み換え技術を使ってつくられた製品が最初に人の口に入ったのは、農産物ではなく、栄養補助食品だった。L-トリプトファンというアミノ酸のサプリメントなんだが、これを飲んだ人の中から、好酸球増多筋痛症候群(EMS)という珍しい病気になる人がアメリカでたくさん現れた。
好酸球増多筋痛症候群(EMS)は、活動不能なほどの激しい筋肉痛に襲われるという病気だ。この病気に1500人以上の人がかかり、死者は38名にものぼった。悲惨な薬害事件だね。
「その原因ははっきりとは特定できないが、遺伝子組み換えが原因である可能性も排除できない」とFDA(アメリカ食品医薬品局)の文書には残されているよ。
L-トリプトファンを製造する会社はいくつかあったが、調べによると、被害を受けた人たちはみな1988-89年の日本の昭和電工製のものを摂取していた。どうやら昭和電工の精製方法がずさんであったために、不純物が取り除けておらず、そのせいで薬害が起きたようだ。
なぜ不純物が入ったのか。
遺伝子組み換え技術を使ってサプリメントや医薬品、添加物などを製造する場合、大腸菌や酵母などの微生物を使うことが多い。微生物の遺伝子の一部を組み換えて、それに目的の物質を産生させる。しかし、遺伝子組み換え微生物は目的の物質(この場合はL―トリプトファン)だけでなく、さまざまな不純物も一緒に産生してしまう。だから、それを丁寧に取り除かなければならない。
では、どの程度まで精製すればいいんだろう。問題のL-トリプトファンの不純物はその後の調査でわずか0.01~0.02%であったことが判明している。一方、公的な含量規格は98.5%以上(日本薬局方)、および98.0~102.0%(食品添加物公定書)。つまり、問題の製品も、十分に公の規格を満たしている。となると、規格に適合しているから安全とは決していえないわけだ。
現在では、インシュリンなどのさまざまな医薬品や一部のワクチン、また旨み成分となるさまざまなアミノ酸などが、遺伝子組み換え技術によってつくられている。
医薬品で救われる人もいるんだろうから、つくるな、とは言わないが、しかしせめてそれが遺伝子組み換え技術を使ってつくられている、ということはきちんと表示して知らせるべきではないか、とボクは思う。
キミが食べているスナック菓子や漬物やハムや練り製品や調味料など、ありとあらゆる加工品に入っている「アミノ酸等」の文字。これは現在ではほとんど遺伝子組み換え微生物によってつくられた添加物を意味している、ということはぜひ頭に入れておいてほしい。わかったうえで食べるかどうかはキミの判断次第だ。
参考資料:トリプトファン事件
L-トリプトファン製品による好酸球増多筋痛症候群(EMS)および変性ナタネ油による有毒油症候群(TOS)
◆アルゼンチンの状況
健康上の問題は、遺伝子組み換え自体から生みだされるだけじゃない。
遺伝子組み換え作物にはさまざまなタイプがあるが、主流となっているのは除草剤をかけても枯れないというタイプ。除草の手間を省くため、大量の除草剤をかけて育てられるものがほとんどだ。この除草剤の影響を、アルゼンチンを例に見てみよう。
南米、アルゼンチンは世界第3位の大豆輸出国。この国で遺伝子組み換え大豆の栽培が始まってから、大量の除草剤ラウンドアップが飛行機で空中散布されるようになった。
アルゼンチンで遺伝子組換え大豆の栽培が本格化したのは2000年。その2年後から、ガン、不妊、死産、流産、そして出生異常が急速に増えてきたという。
アルゼンチン、チャコ州アヴィアテライのカミラ・ヴェロンちゃん(2歳)(↑)は多臓器不全と重度の障害を持って生まれた。『ここでは大量に毒を噴霧しているから、それに汚染された飲み水のせいだろう』と、母親はいろいろな人から言われたという。医師も母親に、農薬が原因である可能性について言及している。
アルゼンチン、チャコ州アヴィアテライに住む、アイザ・カノちゃん(5歳)(↑)は、生まれたときから全身に黒い斑点がある。この先天異常も農薬と関連している可能性がある、と医師は言う。アルゼンチンで遺伝子組み換え農業が劇的に広まって以来、チャコ州では重度の先天的異常を持って生まれてくる子どもが4倍に増えたという。
アルゼンチン、エントレリオス州バサイルバソに住むファビアン・トマシさん(47歳)(↑)はかつて農園で働いており、噴霧用の飛行機に積むタンクに農薬を注入する係りだった。しかし彼は農薬の扱いについて訓練を受けたことは一度もなかったという。『わたしは何百万リットルもの農薬を準備しましたが、何の防護もしませんでした。手袋、マスク、防護服など何も身に付けませんでした。わたしは何も知らなかったのです』と彼は言う。彼は多発性神経障害を発症していて、その痩せ衰えた体は、もはや死が間近に迫っていることを示している。
生まれたばかりで娘を亡くした母親ソフィア・ガチカさんも、除草剤の影響を疑った1人だった。大量の除草剤散布が大豆栽培地区の人々の健康を蝕んでいるのでは? 娘もそのせいで亡くなったのでは?……娘の死を受け入れられなかったソフィアさんは娘の死因を明らかにすべく立ち上がった。
ソフィアさんは近隣の住民を訪ね歩き、同じ懸念を持つ母親たちとグループをつくり、共同で綿密な調査を行った。
ソフィアさん(右から2番目)と母親たちはがん、白血病、肝炎、自己免疫疾患など、病気の種類ごとにマークをつくり、地図上にそのマークを付けていった。結果、大豆栽培の盛んなその地区(イトゥザインゴ)のガン発生率は全国平均の41倍という非常な高率であることがわかった。
「イトゥザインゴで行われている農薬散布は、ひそかな虐殺です」とソフィアさんは語る。
ソフィアさんの実態調査を裏付ける科学的証明をしたのは、ブエノスアイレス医科大学教授のアンドレス・カラスコ博士率いる国際的科学者チームだ。
除草剤ラウンドアップの主要な有効成分をグリフォサートという。それをごく低濃度に薄め、カエルや鶏の胚に注入した結果、奇形が発生することを、教授らは実験で確認した。「研究室での実験結果は、妊娠中にグリフォサートにさらされたヒトに生じた奇形と一致している」とカラスコ教授は述べている。
カラスコ教授らと連携したソフィアさんの努力はついにアルゼンチンの行政を動かし、イトゥザインゴの住民居住地から2500km以内では、飛行機による農薬空中散布は禁止となった。さらに全国での空中散布禁止を目指して、彼女は活動を続けているという。しかし、飛行機さえ使わなければいいという問題じゃない。
実験で奇形が生じたときのグリフォサートの濃度は2.03ppm。農作物中のグリフォサートの残留基準は作物ごとに定められているが、日本では菜種と綿実で10ppm、最大となる大豆や大麦では20ppmだ。実験の濃度は、わずかその10分の1ということになる。それで奇形が生じるのだ。
「グリフォサートの毒性はあまりに過小評価されている。場合によっては猛毒になる」とカラスコ教授は言う。仮に農薬を空から撒くのを禁止したところで、その農薬が残留する農産物を食べれば、結局は農薬を体に摂り込むことになってしまう。だから、これはアルゼンチンやアメリカのような大規模農場がある国だけの問題として片づけるわけにはいかない。
遺伝子組み換え作物を食べるということは、多くの場合、それと一緒に除草剤を摂取することでもある。それが人間の健康を蝕んだり、胎児に壊滅的な悪影響を与える可能性があるんだ。
参考資料:アルゼンチン、遺伝子組み換え大豆の農薬噴霧で居住不能になった街(Tomo’s blog)
遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たち(Tomo’s blog)
GM SOY Sustainable? Responsible?
Potential effects of agrochemicals in Argentina, The Big Picture, Boston.com
◆フィリピンの農民たちの実体験
2003年からGMコーンの栽培が始まったフィリピンでは、栽培されるGM(=遺伝子組換え)コーンの9割を、除草剤耐性と殺虫毒素(Bt)を兼ね備えた品種が占めている。当然のことながら、農民たちは収穫したコーンを売るだけではなく、自家消費用にも利用しようとした。ところがGMコーンは、食べるとお腹をこわすなど、さまざまな体調不良を引き起こしたという。今ではみな懲りてしまい、誰も食べようとする者はない、売るだけだ、という。
殺虫毒素は昆虫の消化管を破壊する作用がある。それが人間の消化管にも悪影響を与えているとしか思えない。
Bt toxin found in human blood is not harmless
「サルでもわかる遺伝子組み換え」作者、安田美絵
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