1/13、「遺伝子組み換え表示制度に関する検討会」委員、夏目智子氏にA4×7枚に渡る意見書を送ったところ、本日、氏の所属団体から返信がありました(後掲-(A))。 夏目氏は消費者代表委員3人のうちでも、もっともわたしたちに考え方の近い、頼りになりそうな方ですが、あまり芳しい返事でなかったのは残念です。 わたしたちからのハガキやファックスが届いていることは文面からも明らかですが、まだその数が十分でないように思われます。 「安田様やお仲間の皆様」という表現からは、「遺伝子組み換えでない」表示が消えてほしくないと思っているのが、ごくごく内輪の少数の人だけと、見られていることが伺えます。 こんなに多くの消費者が、「遺伝子組み換えでない」表示の存続を望んでいるんだ、ということがはっきりわかるよう、もっともっと多くの意見を送りましょう!! なお、わたしが意見を送った宛先は、夏目智子氏の所属する全国地域婦人団体連絡協議会事務局。 わたしから送ったのは(B)夏目氏宛ての意見書と(C)夏目氏から消費者庁に提出いただきたい、検討会用資料の雛形 の2点です。(C)は(B)を簡略化した内容となっています。
~~(A)夏目氏所属団体からの返信 平成30年1月15日~~ 安田様 意見書及び情報提供、ありがとうございました。 委員である夏目とも相談いたしましたが、 安田様やお仲間の皆様のご意見につきまして、 そのまま私どもの団体として意見表明をすることはできません。 私どもといたしましても、 遺伝子組換え表示制度につきましては、 消費者の選択に資する有効な表示制度になるよう今後も取組んでいく所存でございますが、 現状、委員会直前に意見交換させていただくことは差し控えたいと存じます。 大変申し訳ございませんが、 今回の意見交換及び意見の発出につきましては、ご協力致しかねます。 どうぞ宜しくお願い申し上げます。 全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長 長田三紀 〒150-0002 渋谷区渋谷1-17-14 全国婦人会館3階 ℡ 03-3407-4303 fax 03-3407-4305 e-mail ××××× ~~~~~~~~~~~
~~(B)安田から夏目氏宛ての意見書 平成30年1月13日~~
意見書
遺伝子組み換え表示制度に関する検討会委員
夏目智子さま
〒141-0001 品川区北品川5-16-19
ルナ・オーガニック・インスティテュート 安田美絵
電話:03-3443-2991 Email:yasuda@luna-organic.org
拝啓
新春の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
すべての遺伝子組み換え食品に表示を望む者として、遺伝子組み換え表示制度に関する検討会の行方を注視し、傍聴を重ねてまいりました。夏目さまが時折、消費者の願いを代弁して意見を述べてくださることに勇気づけられ、感謝をしております。しかし、これまでのところ、わたくしどもの望む改善が行われる見込みがないばかりか、むしろ制度改悪の危機に陥っている、とわたしは見ています。
まず、おおまかに意見の概要を述べますと、
- Ⅰ.論点1「表示義務対象品目」―議論の矛盾点を突いて結論をひっくり返していただきたい
- Ⅱ.論点3「遺伝子組み換え不分別」の区分と名称―他の委員の虚偽や詭弁を突いて、結論をひっくり返していただきたい
- Ⅲ.論点4-1.「遺伝子組み換えでない」表示が認められる混入率
Ⅳ.論点4-2.「遺伝子組み換え不分別」の表示義務を免れる混入率
―夏目さま他、消費者側委員の意見がもたらす重大なデメリットに気づいていただき、意見を修正していただきたい
- Ⅴ.そのために、次回の検討会に夏目さまのご意見として資料を提出いただきたい(武石委員がいつも資料を提出しているような要領で)
と願っております。
以下に詳しく述べさせていただきます。
Ⅰ.論点1「表示義務対象品目」について
議論の中では、表示義務を課すためには、監視ができなければならず、そのためには製品が科学的に検証できること、というのが要件とされてきました。
仮に百歩譲って科学的検証が必要だとしても、必ずしも製品段階でのDNA検出が必要なわけではない、ということが、第7回の検討会の中では露呈したといえます。すなわち、資料1-P15を示しての説明が事務局と今村委員からあり、①市場で製品を買って、それをスクリーニング検査法で検査し、対象商品を絞り込む→②IPハンドリングの書類を確認する。→③必要に応じて原材料を粒検査法またはグループテスティングによって検査する
というふうに、「科学的検証」と「社会的検証」の両方を使って監視をしていることがわかりました。
粒検査法とは文字どおり、粒の状態で検査するもの。グループテスティングも同じです。厳密に混入率を確定するためには原材料の検査をすることもある、ということなのですから、少なくとも原材料が粒の状態で工場にあるような製品(典型的な例は油)は、科学的検証が十分に可能だということです。
もしも食用油を監視するとしたら、どうなるかを考えてみましょう。 ①の製品による科学的検証はできません。油には組み換えられたDNAやそれによって生成したたんぱく質が含まれないためです。 ②IPハンドリングの書類を確認…①の段階を踏まずにいきなり立ち入り検査を行うことになります。 ③立ち入り検査で原料を入手し、粒検査法またはグループテスティングによって混入率を確認します。
油の場合は、監視方法の①の絞り込みという段階がなくなるだけの話です。 最終的には原料を検査しない限り、信頼のおける混入率は測れない、というのは、油(製品では科学的検証不可)も、コーンスナック菓子(製品でも科学的検証可能)も同じこと。 「(製品段階で)科学的検証ができないものは、監視ができない」という今村委員の主張は論理的に破綻しています。 たとえば、お菓子などの場合には、油や糖類などが原料であって、遺伝子組み換え農作物の粒が原料ではないため、科学的検証はむずかしいかもしれません。 しかし、油や醤油であれば、その工場に原料の粒が存在しているはずで、それを科学的検証にかけることは可能です。 監視のための人員は限られるでしょうから、あちこちの事業所の立ち入り検査がどこまでできるか、という問題はあるでしょうが、最低限油くらいはできるでしょう。醤油と比べたら零細企業はそれほど多くなく、大きな製油所が多いですから、立ち入り検査の手間もそうそうかからないのでは、と推測されます。 科学的検証が必要、と主張される委員も、油の表示義務化を否定できる根拠は本当はどこにもないのです。ぜひ、この論理の矛盾点を突いて、せめて油だけでも表示義務化していただきたいと思います。 遺伝子組み換え作物の食品としての用途でもっとも多いのは油ですので、そこだけでも表示義務化されれば、その意義は大きいといえるでしょう。
また、もしも議論の中で今村委員などが①の絞り込み段階なしに立ち入り検査をするのは手間がかかりすぎる、などと言いだした場合には、監視の体制について具体的な説明を要求していただきたいと思います。「監視」のために政府のどんな部署の人間が何人くらいの体制で業務を行っているのか、市場に出回っている「遺伝子組み換えでない」製品の何%くらいを調査すれば監視できているといえるのか、1年に何品くらい検査しているのか、そのうち違反が検出されたことはあるのか、その場合の罰則はどうなるのか、等掘り下げて追及していただき、相手がごまかして言い逃れする道をふさいでいただきたいと思います。
Ⅱ.論点3「遺伝子組み換え不分別」の区分をどうするか
この議論の中では、理屈のとおらない発言が目立ちました。
(1)「不分別のものには0%~100%まである」の嘘
今村委員からは「遺伝子組み換え不分別のものには、遺伝子組み換えが0%のものから100%のものまである。それを一律に『遺伝子組み換え』と表示してしまうことはいかがなものか」という趣旨の発言がありました。しかし、港湾等での調査では、不分別のものは大豆で平均105%(最小でも88%)、とうもろこしは平均304%(最小でも199%)(ともにスクリーニング検査法によるため、スタックの影響で数値が大きくなっている)が遺伝子組み換えであることが、明らかにされています(検討会第1回資料4「遺伝子組換え表示制度に係る分別生産流通管理等の実態調査の概要」に記されています)。
しかも、今村委員本人が第7回の検討会で、0%のものなどない、という趣旨の発言をしています(意図せぬ混入率を0%に設定したら、「遺伝子組み換えでない」と表示できるものなど、なくなってしまいますよ、という趣旨の発言)今村委員の発言は矛盾しており、まったく理にかなってないことを指摘してください。
スクリーニング法による検査では100%を超えているという調査データがきちんとあるのですから、このデータをもとに「不分別のものは100%遺伝子組み換えである」「だから、遺伝子組み換えと表示すべきだ」と主張することもできるはずですし、そのほうがよほど理にかなっています。
この数字にはスタックの影響があるわけですが、その影響を取り除いて考えても、現実には9割以上が遺伝子組み換えでしょう。非遺伝子組み換えのものは特別な需要があり、高く売ることが可能で、ほとんどIPハンドリングされているはずだからです。
(2)「消費者を誤解させる」の詭弁
武石委員からは「遺伝子組み換え不分別のものには、非遺伝子組み換えのものも混じっているのに、それに『遺伝子組み換え』と表示してしまうことは消費者の誤認につながる」という、あたかも消費者の知る権利を慮っているかのような恩着せがましい発言がありました。
しかし表示による「誤認」で問題になるのは「優良誤認」の場合です。もっといい製品だと思って高いお金を出して買ったのに、実際はそうではなかった、という場合、消費者は「損をした」と感じるため、これは消費者保護の観点から問題となります。しかし、表示から読み取れる以上に実際にはいい製品であったという場合、誰も不服に思う消費者はいません。
消費者が表示を求めるのは「遺伝子組み換えでない」ものを選びたいから。「遺伝子組み換え」と書いてあるものに、多少「遺伝子組み換えでない」ものが混じっていても、不満に思う消費者はどこにも存在しないのです。そのことを明確に指摘し、誤認があっても何も問題ないことを主張していただきたいと思います。
高オレイン酸大豆など、遺伝子組み換えによって消費者のメリットとなるような機能を持った作物を原料とする製品で、しかもその機能(「高オレイン酸」など)を表示する場合にのみ、IPハンドリングを義務付けることにすればいいでしょう。
(3)イオンは一部の製品に「遺伝子組み換え不分別(遺伝子組み換えのものが混じっている可能性があります)」と表示していますが、このほうがよほど消費者を誤認させるものです。「混じっている可能性があります」という文言からは「混じっている可能性は高くない」「混じっていないかもしれない」「仮に混じっていたとしても、そんなに割合は多くなさそうだ」というニュアンスが感じとれます。しかし現実にはおそらく9割程度が遺伝子組み換えなのですから、これは実態とはかけ離れたものです。「遺伝子組み換えが混じっている可能性があります」という表記は禁止すべきです。
(4)IPハンドリングがないものは一律「遺伝子組み換え」と表示すべきです。それがもっとも消費者にとってわかりやすく、しかも現実との乖離もほとんどありません。
(5)百歩譲って「遺伝子組み換え不分別」の区分を残すとした場合、澤木委員の提案「遺伝子組み換え(不分別)(非遺伝子組み換えが混じっている可能性があります)」のほうが、はるかに実態を表していて好ましいといえるでしょう。第7回検討会の冒頭、夏目さまがいらっしゃらない時の提案だったため、賛同を表明していただけなかったことは大変に残念です。次善策として、この案への賛同を示していただけたらと思います。
Ⅲ.論点4-1.「遺伝子組み換えでない」表示が認められる混入率の設定
- 表示が消える=安心感が消える
とうもろこしの場合はIPハンドリングをしたものでも平均1.0%、最高で4.1%程度の混入が港湾等での調査で確認されており、(参考:検討会第1回資料4「遺伝子組換え表示制度に係る分別生産流通管理等の実態調査の概要」)、混入率を少し下げただけでも、「遺伝子組み換えでない」と表示された製品は市場から姿を消す可能性が高くなります。
大豆製品でも、もし基準を0%にまで下げると、「遺伝子組み換えでない」表示ができるものは、国産大豆製品のみとなり、「遺伝子組み換えでない」表示の流通量が圧倒的に減ることが予想されます。
それが本当に消費者のためになるのでしょうか?
よく考え直していただきたいのです。
多くの消費者は遺伝子組み換え食品の安全性を疑っており、「遺伝子組み換えでない」食品を選びたいと望んでいます。仮に微量混じっていても、「遺伝子組み換えでない」の表示を確認して「可能な限り混入率の低い、可能な限り安全な食品を選んでいるんだ」という安心感を得たいのです。
混入率の引き下げが実現可能であれば、それに越したことはありませんが、混入率の基準を下げることによって「遺伝子組み換えでない」表示の製品が市場から消えてしまうのでは、元も子もありません。それは、消費者の望むところではなく、表示制度改悪に他なりません。
食べる製品の実態は変わらなくても「遺伝子組み換えでない」の表示を見ることで得ていた安心感が消えてしまうというのは大問題です。
- 表示制度がますますわかりにくくなる
現在も、表示義務のある食品とない食品の両方が併存することによって、 豆腐の場合は表示なし=遺伝子組み換えでない(混入率0.1%程度) 油の場合は表示なし=遺伝子組み換え不分別(混入率9割程度) というふうに逆の意味になり、分かりにくいという問題がありますが、 今は任意で「遺伝子組み換えでない」の表示をすることによって、そのわかりにくさを解消する方法があります。 それがなくなれば、今でもわかりにくい表示制度が、ますますわかりにくくなってしまうだけです。
- 遺伝子組み換えに対する警戒感が薄れる
「遺伝子組み換えでない」表示が消えると、市場の製品から遺伝子組み換えに関連する表示がほとんど消えることになり、そのうち遺伝子組み換え食品がこの世に存在することすら知らない若い世代も出てくるでしょう。
消費者は「遺伝子組み換えでない」表示を目にすることにより、他には遺伝子組み換えの食品もあるのだろうな、と想像し、気を付けよう、という警戒感を持ちますから、これは消費者に対する警告としても多少役に立っているのです。だからこそ遺伝子組み換え推進派はこの表示をなくしたくてたまらないのであって、わたしたち消費者がその策略に乗せられてはダメなのです。
- 実現可能な混入率の設定を
「遺伝子組み換えでない」表示の製品が市場から消えてしまわないよう、混入率は実現可能な数値を設定してください。0%にすることは決してしないでいただきますようお願いします。
そのうえで、とうもろこしの混入率は本当にこれ以上下げることはできないのかどうか、再検証を迫りたいものです。調査データ(第1回検討会の資料4)で混入率平均1.0%となっているのを見ると、多少下げる余裕はあるようにも感じられます。
(5)「権利と義務は一体」の詭弁
なお、立川委員から「権利は義務と一体であるべきもので、『遺伝子組み換え』の表示義務がない品目(油など)に対して『遺伝子組み換えでない』と表示する権利は与えるべきではない」という旨の発言がありましたが、これも詭弁です。「遺伝子組み換えでない」と表示してもよい権利と表裏一体をなす義務は、「意図せぬ混入率が規定を満たしていること」です。このような詭弁に惑わされないでください。もし再度同様のことが話題にでることがありましたら、この理屈の非合理をぜひ指摘していただきたいと思います。
Ⅳ.論点4-2.「遺伝子組み換え不分別」の表示義務を免れる混入率の設定
- IPハンドリングをやめる企業が出てくる可能性
混入率を少しでも下げると、とうもろこしの場合、輸入コーンのほとんどが基準値を超えてしまう可能性が出てくるため、「遺伝子組み換え不分別」表示をしなければならなくなります。(加工用とうもろこしは、日本ではほぼすべてを輸入に頼っており、国産品でまかなうのは不可能です)
IPハンドリングをしてもしなくても、結局は同様に「遺伝子組み換え不分別」表示を義務付けられることになるわけです。そうなったら、手間もお金もかかるIPハンドリングなんてやめてしまおう、という業者も当然出てくるのではないでしょうか。
- 日本人の健康に重大な悪影響を及ぼす可能性
IPハンドリングをやめる業者が出てくるということは、コーンスナック菓子やコーンフレークにも不分別のものが使われるようになる可能性が出てくる、ということです。今までは5%以下の混入率で抑えられていたものが、100%近く遺伝子組み換えのものに置き換わってしまう可能性があるということです。それが消費者のためになるのでしょうか。
遺伝子組み換えとうもろこしの多くが「害虫抵抗性」を持っています。すなわち、殺虫毒素であるBtたんぱくを含んでいます。Btたんぱくは昆虫の消化器を破壊して殺す物質です。人間など哺乳類の消化器は昆虫とは違うので、害はない、とされていますが、これには大きな疑問符がつきます。Btたんぱくを含む遺伝子組み換え食品が流通しているアメリカでは、1996年に流通が始まって以降、消化器系疾患が急増しているといわれ、またアレルギーが激増している背景にも、Btたんぱくによる腸の損傷がある、とする説があります。(Btたんぱくの害についてはまた後日詳しくお知らせしたいと思います)
Btたんぱくを含むコーン製品の流通は、日本人の健康に重大な悪影響を及ぼすでしょう。
企業がIPハンドリングをすることのメリットを見いだせなくなるような表示制度は、消費者にとって大きな不利益をもたらす可能性がでてきます。その危険は絶対に回避してくださいますようお願いします。
Ⅴ.資料提出のお願い
次回の検討会の配布資料用に、ぜひ夏目さまのご意見を事前に消費者庁の事務局にご提出いただけますようお願いします。僭越ながら、提出資料の雛形も添付いたしますので、これを元に編集していただければ幸いです。
何卒ご高配賜りますようお願い申し上げます。
敬具
~~(C)夏目氏から消費者庁に提出いただきたい資料の雛形~~
平成30年1月13日
遺伝子組み換え表示制度に関する
これまでの議論の問題点と改善の提案
※安田註:ここに夏目さまの所属とお名前を安田が勝手に入れさせていただいたものを夏目さまには雛形としてお送りしています。失礼な印象を与えてしまったかもしれないのは反省点です。
Ⅰ.論点1「表示義務対象品目」について
議論の中では、表示義務を課すためには、監視ができなければならず、そのためには製品が科学的に検証できること、というのが要件とされてきました。社会的検証だけでは不十分という主張に必ずしも納得しているわけではありませんが、仮に百歩譲って科学的検証が必要だとしても、必ずしも製品段階でのDNA検出が必要なわけではない、ということが、第7回の検討会の中では露呈したといえます。
すなわち、資料1-P15を示しての説明が事務局と今村委員からあり、①市場で製品を買って、それをスクリーニング検査法で検査し、対象商品を絞り込む→②IPハンドリングの書類を確認する。→③必要に応じて原材料を粒検査法またはグループテスティングによって検査する
という方法で監視をしていることがわかりました。
粒検査法もグループテスティングも粒の状態で原材料を検査するものです。製品の検査ではありません。つまり、現在も、厳密に混入率を確定するためには原材料の検査をしているわけです。ということは、少なくとも原材料が粒の状態で工場にあるような製品(典型的な例は油)は、科学的検証が十分に可能だということです。
もしも食用油を監視するとしたら、上記①の段階を省いて、②と③を実施すればよいだけの話です。「(製品段階で)科学的検証ができないものは、監視ができない」という主張は論理的に破綻しているといえるでしょう。 監視のための人員は限られるでしょうから、あちこちの事業所の立ち入り検査がどこまでできるか、という問題はあるでしょうが、最低限油くらいはできるはず。大きな製油所が多いですから、立ち入り検査の手間もそうそうかからないのでは、と推測されるからです。
科学的検証が必要、と主張される方も、油の表示義務化を否定できる根拠はどこにもないのではないでしょうか。 今後は表示義務対象品目に油も加えることを提案致します。
Ⅱ.論点3「遺伝子組み換え不分別」の区分をどうするか
(1)実態はほとんどが遺伝子組み換えであることを重視すべき
議論の中では「遺伝子組み換え不分別のものには、遺伝子組み換えが0%のものから100%のものまである。それを一律に『遺伝子組み換え』と表示してしまうことはいかがなものか」という趣旨の発言がありました。
しかし、港湾等での調査では、不分別のものは大豆で平均105%(最小でも88%)、とうもろこしは平均304%(最小でも199%)(ともにスクリーニング検査法によるため、スタックの影響で数値が大きくなっている)が遺伝子組み換えであることが、明らかにされています(検討会第1回資料4「遺伝子組換え表示制度に係る分別生産流通管理等の実態調査の概要」)。
しかも「0%~100%まである」と発言をされた当のご本人が次の検討会では「0%のものなどない」という、まったく矛盾する発言をしていらっしゃいます。実際0%のものなど存在するわけがないことは、上記の調査データからも明らかです。
少なくともスクリーニング法による検査では、遺伝子組み換え不分別のものは平均100%以上遺伝子組み換えである、これが事実です。これをなんと表示すべきかといえば、やはり「遺伝子組み換え」と表示することが一番理にかなっているといえるでしょう。
100%を超える数字にはスタックの影響があるわけですが、その影響を取り除いて考えても、現実には9割以上が遺伝子組み換えと推測されます。非遺伝子組み換えのものは特別な需要があり、高く売ることが可能で、ほとんどIPハンドリングされているはずだからです。
(2)非遺伝子組み換えの混入はまったく問題ない
「遺伝子組み換え不分別のものには、非遺伝子組み換えのものも混じっているのに、それに『遺伝子組み換え』と表示してしまうことは消費者の誤認につながる」という発言もありました。
しかし表示による「誤認」で問題になるのは「優良誤認」の場合です。もっといい製品だと思って高いお金を出して買ったのに、実際はそうではなかった、という場合、消費者は「損をした」と感じるため、これは消費者保護の観点から問題となります。しかし、表示から読み取れる以上に実際にはいい製品であったという場合、誰も不服に思う消費者はいません。
消費者が表示を求めるのは「遺伝子組み換えでない」ものを選びたいから。「遺伝子組み換え」と書いてあるものに、多少「遺伝子組み換えでない」ものが混じっていても、不満に思う消費者は存在しません。ですので、そのような誤認があってもまったく何の問題もないことを主張させていただきます。
高オレイン酸大豆など、遺伝子組み換えによって消費者のメリットとなるような機能を持った作物を原料とする製品で、しかもその機能(「高オレイン酸」など)を表示する場合にのみ、IPハンドリングを義務付けることを提案致します。それさえできれば、消費者保護の観点からは十分です。
(3)「遺伝子組み換えのものが混じっている可能性があります」表示禁止の提案
イオンは一部の製品に「遺伝子組み換え不分別(遺伝子組み換えのものが混じっている可能性があります)」と表示していますが、このほうがよほど消費者を誤認させるものです。「混じっている可能性があります」という文言からは「混じっている可能性は高くない」「混じっていないかもしれない」「仮に混じっていたとしても、そんなに割合は多くなさそうだ」というニュアンスが感じとれます。しかし現実には100%以上遺伝子組み換え(スクリーニング検査法では)なのですから、これは実態とはかけ離れたものです。不分別のものに対して「遺伝子組み換えが混じっている可能性があります」という表記は禁止することを提案します。
(4)IPハンドリングがないものは一律「遺伝子組み換え」と表示すべき
IPハンドリングをしていないものは一律「遺伝子組み換え」と表示すべきです。それがもっとも消費者にとってわかりやすく、しかも実態との乖離もほとんどありません。
(5)次善策
仮になんらかの理由でどうしても「遺伝子組み換え不分別」の区分を残すとなった場合、澤木委員の提案「遺伝子組み換え(不分別)(非遺伝子組み換えが混じっている可能性があります)」のほうが、はるかに実態を表していて好ましいといえるでしょう。
Ⅲ.論点4-1.「遺伝子組み換えでない」表示が認められる混入率の設定
(1)「遺伝子組み換えでない」表示は守るべき
遺伝子組み換えのものが多少混じっているのに「遺伝子組み換えでない」と表示するのは、消費者に嘘をつくことで、よくないことだと以前は考えていました。
しかし、前回の検討会以降、消費者から寄せられた声を聞き、消費者の多くが「遺伝子組み換えでない」表示が消えることに不満であることがわかりました。
消費者は「遺伝子組み換えでない」食品を求めていますが、これは必ずしも混入率0%でなくても、可能な限り混入率の低い食品を求めている、ということでした。消費者が「遺伝子組み換えでない」という表示を目で見て確認して、安心感を得たいと望んでいる以上、やはりこの表示が実現可能となるような現実的な混入率を設定すべきであると考えるに至りました。
「遺伝子組み換えでない」表示が無くなっても構わない、という前回の発言は撤回します。
(2)これ以上表示制度をわかりにくくしてはならない
現在も、表示義務のある食品とない食品の両方が併存することによって、 豆腐の場合は表示なし=遺伝子組み換えでない(混入率0.1%程度) 油の場合は表示なし=遺伝子組み換え不分別(混入率9割程度) というふうに逆の意味になり、分かりにくいという問題がありますが、 今は任意で「遺伝子組み換えでない」の表示をすることによって、そのわかりにくさを解消する方法があります。そのせっかくの方法が不能となれば、今でもわかりにくい表示制度が、ますますわかりにくくなってしまいます。それは避けなければなりません。
(3)知る権利がますます阻害される
「遺伝子組み換えでない」表示が消えると、市場の製品から遺伝子組み換えに関連する表示がほとんど消えることになり、そのうち遺伝子組み換え食品がこの世に存在することすら知らない若い世代も出てくるでしょう。これは消費者の知る権利を保障するはずの表示制度の後退であると考えます。
(4)実現可能な混入率の設定を
「遺伝子組み換えでない」表示の製品が市場から消えてしまわないよう、実現可能な数値に設定することを改めて要望致します。とうもろこしは本当にこれ以上下げることはできないのでしょうか。調査データ(第1回検討会の資料4)で混入率平均1.0%となっているのを見ると、多少下げる余裕はあるようにも思われます。
Ⅳ.論点4-2.「遺伝子組み換え不分別」の表示義務を免れる混入率の設定
- 実現可能な混入率の設定を
たとえば1%というような実現不能な厳しい混入率を設定した場合、輸入コーンはIPハンドリングをしてもしなくても、同様に「遺伝子組み換え不分別」表示を義務付けられることになります。そうなったら、手間もお金もかかるIPハンドリングなんてやめてしまおう、という事業者も出てくる可能性があります。
すると、今までは5%以下の混入率で抑えられていたコーンスナック菓子が、100%近く遺伝子組み換えのものに置き換わってしまうという可能性もでてきます。それは多くの消費者の望むところではありません。
ですので、この混入率も、実現可能な数値を設定することを要望致します。