遺伝子組み換え表示制度に関する検討会第7回(2017.12.18)ご報告
まずは前回の議題の積み残しから。IPハンドリング=分別流通管理をしていないものを意味する「遺伝子組み換え不分別」という表示がわかりにくいので、もっとわかりやすい表現はないか、という検討から議論が始まりました。
澤木委員からは
「遺伝子組み換え(不分別)」として、但し書きで(非遺伝子組み換えが含まれる可能性があります)と表記するのがよいのでは、との提案が出されました。
これは実態はほとんどが遺伝子組み換えなのだから、まずはそのことを伝え、補足情報も伝えるという意味で丁寧だし、実態をよく表現しているという点で評価できます。
現在イオンでは「遺伝子組み換え不分別(遺伝子組み換えが含まれる可能性があります)」という表記を一部の製品に見ることができますが、あたかも遺伝子組み換えが含まれない可能性も十分にあるような、遺伝子組み換えが仮に含まれていても多くはないような、そんなニュアンスを感じさせるという点で、適当な表現とは言い難いように思います。
それと比較し、澤木委員の案はずっと良い案であると評価できますが、他の委員が誰もそれを評価しようとしなかったのは残念です。
また、現在IPハンドリングなしのものに関しては「遺伝子組み換え不分別」という表現の一択と思われていますが、実はこれはあくまでも例であり、その旨がわかるような表現であれば、他の表現でも許容されている、との説明が事務局からありました。
次に、検査法に関しての説明が、欠席された近藤委員の代理の中村氏からありました。
定量検査(どのくらいの割合で遺伝子組み換えのものが混じっているかの検査)をするための方法です。
まずスクリーニング検査法で検査をし、それで問題がありそうだとなった場合には、粒検査法またはグループテスティングという検査法で検査をする、という2段階になっているとのこと。
スクリーニング法では、35Sプロモーター(目的の遺伝子と、ほとんどの場合セットで一緒に組み入れるもので、目的の遺伝子を目覚めさせる役割を持つもの)などを標的として検出するため、スタック品種(いくつもの特性を持つ=複数の遺伝子を組み込んでいる場合)には、組み込んだ遺伝子の数だけ、検出してしまうことになります。たとえば、3つの特性をもつスタック品種のコーンがあった場合、100%GMでも、検査結果は300%になってしまうということです。
ですからより正確な混入率を検査するためには、スクリーニング検査法以外の検査が必要となり、それが粒検査法、またはグループテスティングというものです。
粒検査法では1粒1粒がGMかどうかを検査するようですが、今のように5%以下かそうでないかを見極めるためであれば、1825粒で済むが、それを1%に下げようと思ったら、9508粒の検査が必要になる、とのこと。
グループテスティングでは20粒ずつのグループに分けてPCR法で検査するとのことですが、5%なら155のグループで済むのが、1%にするためには515のグループを検査しなければならなくなるとのこと。
要するに、混入率の基準を厳しくしようとすると、検査は飛躍的に大変になる、という話でした。
また、プロモーターとして35Sプロモーターを使わない(とうもろこし内在のプロモーターを使う)など、新しいタイプの遺伝子組み換え作物がでてきており、定量化はむずかしくなってきている、という話もありました。
「定量試験(どれだけ含まれるか)は難しくても、定性試験(含まれるか否か)なら難しくないんですよね?」と質問したのは松岡委員です。「定性試験で遺伝子組み換えがちょっとでも含まれるなら、不分別。まったく含まれないもののみ『遺伝子組み換えでない』表示にしたらよい」との主張です。
「しかし、とうもろこしで定性試験をすればみな陽性になりますよ」と突っ込みを入れたのは今村委員です。「『遺伝子組み換えでない』表示ができるものはなくなってしまいますよ」というのは確かにそのとおりでしょう。
ちなみに、この委員は前回の検討会でIPハンドリングしないものを「遺伝子組み換え」と表示することに反対し、「IPハンドリングしていないものの中にはGM100%のものからGM0%のものまであるのだから」などとうそぶいていました。GM0%のものなんてありっこない、とわたしは思いましたが、今回それが嘘であることを自ら露呈したかたちです。
さて、今回の最大の議題は「遺伝子組み換えでない」表示をするための要件の検討です。
5%以下なら意図せぬ混入があってもよい、とする現状の要件は緩すぎるのではないか、もっと厳しくしたほうがよい、とわたし自身、以前は思っていましたし、そうした意見を消費者庁にもぶつけてきました。
しかし、現実問題として、「遺伝子組み換えでない」ものとして流通しているものを調査すると、大豆で最大0.3%、とうもろこしで最大4.1%の混入が確認されているとのこと。
きちんと管理するための努力がなされていても、とうもろこしの場合は風媒花であることもあって混入を避けられず、港湾などでも10~15%程度が「遺伝子組み換えでない」とは認められないとして受け取り拒否されるそうで、これ以上管理の精度を上げることは無理、という話でした。
事務局からの提案は
〇「遺伝子組み換えでない」を表示する要件として、意図せぬ混入の許容率を現在の5%より厳しく(α≪アルファ≫%に)するかどうか
〇「遺伝子組み換え不分別」という義務表示は免れるが、「遺伝子組み換えでない」という表示はできないという中間的な区分(表示なし。または新規の表示)を設けるかどうか
〇「遺伝子組み換え不分別」という義務表示を免れる要件も、現在は5%以下だが、これももっと厳しく(β≪ベータ≫%に)するかどうか。
を問いかけるものでした。
5%という数字、0%という数字を挙げる委員もいれば、具体的な数字を出さないながらも「より厳しく」と主張する委員もいましたが、今自分のメモを見返すと、それがαの話なのかβの話なのか、よくわからなくなってしまい、各員の意見を今正確にお伝えできません。詳細は議事録をお待ちください。
座長のまとめは
〇βに関しては、いろいろな意見が出たため、今回はまとめられない
〇αに関しては、「より厳しく」
ということでした。
ここで大きな問題を指摘しておきたいと思います。
まずはβ=「遺伝子組み換え不分別」表示を免れる混入率(現状5%以下)を、今以上に厳しくした場合、たとえば3%などに変更した場合を考えてみましょう。
とうもろこしの場合、加工用のほぼすべてを日本では輸入に頼っていますが、輸入コーンのほとんどが基準値を超えてしまう可能性が出てくるため、「遺伝子組み換え不分別」表示をしなければならなくなります。
業者は売れ行きが落ちることを恐れ、「不分別」表示をしたくないのですが、しかし、国内で加工用のコーンを調達することは無理ですし、輸入すれば必ず混入はあるしで、どうしても「不分別」表示をすることになります。
すると、どうせ「不分別」表示をしなければいけないなら、手間もお金もかかるIPハンドリングなんかやめちまえ、という話になる可能性が高いのではないでしょうか。
IPハンドリングをやめるということは、コーンスナック菓子やコーンフレークに、遺伝子組み換えのものが使われるようになるということです。(現在は遺伝子組み換えのものは流通していません)
つまり、Btたんぱく(=殺虫毒素)をたっぷり含むコーン製品も流通するようになるということです。これではアメリカと同じです。これは日本人の健康に重大な悪影響を及ぼすでしょう。
意図せぬ混入率を下げるというのは、一見すると望ましいことのように思えますが、それを実現する現実的な手段がない中で、基準の数値だけ下げても、消費者にとってのメリットはほとんどなく、かえって重大なデメリットを生むことになります。ですから、このβの数値は下げないほうがいいのです。
次に、α=「遺伝子組み換えでない」表示の要件としての混入率の数値を現状の5%から下げることを検討してみましょう。
この場合は、流通する食品の内容自体までが変わってしまう危険性はないと思われます。
1%にまで下げても、大豆製品はほとんど何も影響を受けずに済むでしょう。
ただし、0%にまで下げると、「遺伝子組み換えでない」表示ができるのは、国産大豆製品のみとなり、輸入大豆製品は「表示なし」となります。「遺伝子組み換えでない」表示の流通量が圧倒的に減ることが予想されます。
とうもろこしの場合は、少しでも下げると「遺伝子組み換えでない」と表示された製品は完全に市場から姿を消します。
果たしてそれでいいのでしょうか?
食べる製品の実態は変わらなくても、「遺伝子組み換えでない」ものを食べているという、これまであった安心感が消え、ますます何がなんだかわからなくなってしまうだけではないでしょうか。
現在の実態としては、遺伝子組み換えに関する何らかの表示があるのは、表示義務があってかつ「遺伝子組み換えでない」もののみ。この表示すら消えてしまうことになれば、日本は遺伝子組み換えに関する表示を一切見かけない国になってしまいます。
現在、一部の食品に「遺伝子組み換えでない」の表示があるということが、遺伝子組み換えされた食品も他にはあるのだな、ということを推測させ、また、遺伝子組み換えに関する警戒感を生むことに、多少ながらも役立っています。
これを無くしてしまうことは得策ではない、とわたしには思えます。
遺伝子組み換えのものには「遺伝子組み換え」と表示し、遺伝子組み換えでないものには何も表示しない、というのが一番シンプルでわかりやすい、という主張もありますが、それはすべての遺伝子組み換え食品に表示義務が課されているという前提に立ったうえのもの。一部にしか表示義務がない中でそれをやっても、わかりにくさが増すばかりです。
農民連食品分析センターが2年ほど前?に豆腐などの大豆製品の定量検査をしたとき、0.1%とか、0.01%という低い数字のものしか出て来なかったことを記憶しています。日本の企業は予想以上に良心的に、混入率を低くするための努力をしています。5%まで許容されているから、ギリギリまでGMを混ぜちゃえ、などという不届き者はほとんどいない(たしか20検体くらい検査した結果)のです。
大豆は現実問題として混入率はかなり低い。とうもろこしはこれ以上低くしようがない。
というのであれば、5%という数値は据え置きで(つまり、αもβも5%で)よいのではないでしょうか。それが一番消費者にとってのメリットになるようにわたしには思えます。
(ただし、α%~β%の混入率のものを「表示なし」とするのでなく、「遺伝子組み換えでない(β%以下の遺伝子組み換えが含まれる可能性があります)」と明記するのであれば、αを下げることに賛成です。それが一番親切な情報提供になるでしょう)
しかし、この検討会の場では消費者側委員の方々がαもβも今より厳しく、という意見を出されていたので、そのデメリットをお伝えしなければ、と思います。
なお、第5回の検討会で、今村委員から「一般的な検証と、監視できるというレベルはイコールではない」「科学的検証ができない限り、監視は不可能」というような意見があり、この根拠を問う手紙を今村委員はもちろん、消費者庁にも湯川座長にも送ったのですが、この第7回の検討会でやっとそれに対する説明が少しでてきました。
資料の中に「<参考>科学的検証と社会的検証」というページがあり、
表示義務対象品目の遺伝子組み換え表示の一般的な監視についてごく簡単に記されています。
対象は「遺伝子組み換えでない」旨の表示があるものや、遺伝子組み換えに関する表示がないもの
①まずは製品をスクリーニング検査し、GMが含まれるものを絞り込み(科学的検証)
②IPハンドリングの書類を確認(社会的検証)
③必要に応じて原料を粒検査法またはグループテスティングでテストし、混入率を確認(科学的検証)
という段階を踏むとのこと。
もしもこれを油で実施したら、どうなるかを考えてみましょう。
①の製品による科学的検証はできません。油には組み換えられたDNAやそれによって含まれたたんぱく質が含まれないためです。
①IPハンドリングの書類を確認…①の段階を踏まずにいきなり立ち入り検査を行うことになります。
③立ち入り検査で原料を入手し、粒検査法またはグループテスティングによって混入率を確認します。
油の場合は、現在の監視方法から、①の絞り込みという段階がなくなるだけの話です。
最終的には原料を検査しない限り、信頼のおける混入率は測れない、というのは、油(製品では科学的検証不可)も、コーンスナック菓子(製品でも科学的検証可能)も同じこと。
「(製品段階で)科学的検証ができないものは、監視ができない」という今村委員の主張は論理的に破綻しています。
たとえば、お菓子などの場合には、油や糖類などが原料であって、遺伝子組み換え農作物の粒が原料ではないため、科学的検証はむずかしい。
しかし、油や醤油であれば、その工場に原料の粒が存在しているはずで、それを科学的検証にかけることは可能です。
監視のための人員は限られるでしょうから、あちこちの事業所の立ち入り検査がどこまでできるか、という問題はあるでしょうが、最低限油くらいはできるのではないでしょうか。
醤油と比べたら零細企業はそれほど多くなく、大きな製油所が多いですから、立ち入り検査の手間もそうそうかからないのでは、と推測されるからです。
科学的検証が必要、と主張される方も、油の表示義務化を否定できる根拠は本当はどこにもないのです。ぜひ、その部分だけでも表示義務化していただきたいと思います。
遺伝子組み換え作物の食品としての用途でもっとも多いのは油ですので、そこだけでも表示義務化されれば、その意義は大きいです。
(ただし、わたし個人的には、③の科学的検証を行わず、②のIPハンドリングによる社会的検証だけでも検証は十分だと思っています)
次回の検討会は1/31、10:00~に決まりました。ここでもうほとんど結論が出てしまう可能性があり、
消費者にとってなにひとつメリットがなく、デメリットばかりの制度改悪に終わってしまう危険性があります。
なんとかできないか、悶々としてしまい、昨晩はほとんど眠れませんでした。
まずは消費者側の委員と会う方法を模索してみようと思います。