第8回「遺伝子組み換え表示制度に関する検討会」(平成30年1月31日)のご報告第2弾。こちらでは検討会の流れに沿ってご報告します。(わたしのメモから書き起こしたものなので、各委員の発言は言葉通りではありません。多少の間違いがあるかもしれませんがお許しください)
まず事務局から遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書案(たたき台)[PDF:249KB]が示され、それを見ながら、各委員が付け足してほしい文言を述べたり、修正すべき文言を指摘する、というふうにして話が進みました。
たとえば、「1.はじめに」には、背景となる事情を述べるべき、とか、「2.遺伝子組み換え表示制度の基本的考え方」には、今回検討された内容の範囲はあくまでも人間の食料の容器包装上の表示であって、インターネットによる情報提供や、飼料は含まれない、ということを明記すべき、などといった内容です。
この辺りに関してのご報告は省きます。
今回の最大の問題は、前回結論が出なかった部分、①「遺伝子組み換えでない」表示の要件となる混入率(=α)と、②「遺伝子組み換え不分別」の表示義務が課される混入率についてです。
- と②を別々に設定した場合、その中間については表示なしとされる恐れがありましたが、
今回はそこを「遺伝子組み換えでないものを分別」という任意表示にする、という案が示されました。
松岡委員:「遺伝子組み換えでない」表示の要件を厳しくし過ぎると、該当するものがなくなるという話があったが、原料の調達はどの程度難しくなるのか。仮に3%にしたらどうなるのか、あるいは0.9%にしたらどうなるのか、教えてほしい。
近藤委員:スクリーニング検査法では過剰定量になる(=複数の特性が組み込まれた品種の場合、その特性の数を拾ってしまうため、実際のパーセンテージの数倍になってしまう)ため、スクリーニング法で3%や0.9%の基準をクリアすることは難しい。そうすると第2段階の試験である粒検査法やグループテスティングも行わなければならなくなり、手間暇が数倍になる。それは現実的にむずかしい。
松岡委員:国産品でも混入率ゼロの実現は難しいという話もあったが、そうなのか。
事務局:東京都の調査ではとうもろこし13検体中7検体、大豆では15検体中13検体からは遺伝子組み換えが不検出であった、という報告がある。だから、混入率0%を実現できる商品はちゃんとある。
武石:「遺伝子組み換えでないものを分別」という表現はいかがなものか。もっとふさわしい表現を考えるべき。
立川:「遺伝子組み換えでない」表示の要件となる混入率は5か0か、どちらかしかありえない。0.9とか1だと検知に莫大なお金がかかる。定性テスト(パーセンテージは測らず、含まれるかどうかだけを判断する試験)なら簡単だから、0かどうかの判断は容易だ。ここの数値を厳しくしてしまうと、試験にお金をかけられる大手企業だけが生き残り、中小事業者が淘汰される、という問題も起こってくる。それでいいのか。
今村:やはり混入率は0か5かのいずれかにすべきだ。そうでないと現実的に運用できない。0に設定した場合「遺伝子組み換えでない」と書ける業者はいなくなる。いったん試験して0であっても、もう1回別の方法で検査すると出る、という可能性もあり、リスクが高すぎるからだ。
IPハンドリング(分別流通管理)は、そもそも少しでも混入率の低いものを輸入するにはどうしたらいいかを考えて作った制度だ。0に設定するとIPハンドリングが崩壊するリスクを感じる。それが怖い。
近藤:「遺伝子組み換え不分別」表示を義務付ける混入率は5のままでいい。α(「遺伝子組み換えでない」表示の要件)は検出限界値とするのが筋だ。今村委員の懸念はない。
今村:サンプリングによるデータの揺れは必ずある。(毎回0などということはあり得ない)
近藤:何度か検査すれば大丈夫なのでは。
夏目?:今村委員の懸念はわかるが、αはできるだけ低いほうがいい。中間のものは表現を工夫することで解決すべきなのでは。
武石:αを0にしたらIPハンドリングが消滅するんじゃないか。中小の豆腐屋さんなどは対応できない。大手企業だけが対応できる。コーンはアメリカからのものは輸入できなくなる。しかも、日本ではデントコーン(加工用コーン)の栽培はまったくない。
どんなに表現を工夫しても「遺伝子組み換えでない」よりは後退(=消費者にとっても業者にとっても魅力がない、メリットが感じられない)だ。IPハンドリングの崩壊は起こり得る。それは避けるべきだ。
立川:崩壊した場合、「遺伝子組み換え不分別」と書くことになる。本当にそこまでするだろうか。まさかそこまではしないだろう。(=IPハンドリングをやめることはないだろう)
神林:IPハンドリングしているよ、ということがはっきりとわかるような表示にできればいい。
今村:必ずしも、制度を設計する側の意図どおりに現実が動くわけではない。(今の制度ができる前には、「遺伝子組み換えでない」と「遺伝子組み換え不分別」の商品が市場に流れ、消費者はそれを選択することになる、と予想していた。ところが)予想に反して、「遺伝子組み換えでない」だけになってしまった。「遺伝子組み換えでない」と書けなくなることは、リスクが高いと思わざるを得ない。前回予想を外した経験があるので、今回も慎重にならざるを得ない。
澤木:今の消費者は「遺伝子組み換えでない」表示しか目にしていないので、それがなくなると戸惑うだろう。でも、ちゃんとIPハンドリングされていて、それが5%以下である、ということがわかる表示ができればいい。
夏目:「不分別」という表現も問題だが。GMFreeと表現する以上、混入率を検出限界値に近くするというのは世の中の流れだ。IPハンドリングを崩さないこと、事業者の努力に報いることは大事だ。
武石:「遺伝子組み換えでない」表示を消費者は求めている。それが消えることは大きな損失だ。国産のものであってもコンタミネーションが起ることがあるので、中小業者が本当に対応できるのか疑問だ。
湯川:検査法の判定基準、偶発リスク等考えないといけない。それを考慮した制度設計が求められる。「遺伝子組み換えでないものを分別」と書くのでは不十分だろうか。
武石:後退だ。どんな表現を考えても、「遺伝子組み換えでない」と表現できなくなることは後退だ。
松岡?:醤油など、表示義務のない製品にも現在「遺伝子組み換えでない」表示があるが、これに関してはどうなるのか。
事務局:任意表示であっても、消費者の選択に資する情報は提供できる。現に、油にも醤油にも表示義務はないが、任意で「遺伝子組み換えでない」と表示されたものがある。これらの表示にも正確性は求められる。その正確性を担保するために、監視が行われている。立ち入り検査をしてIPハンドリングの書類をチェックし、さらに原料の分析も行っている。5%という基準が変更されても、対応は同様だ。
立川:事業者は「遺伝子組み換えでない」表示に関しては「消費者がそれを望んでいるから必要だ」、と主張するが、それ以上に消費者が望んでいるのは表示範囲の拡大だ。しかし、それに関しては事業者は後ろ向きで、主張が一貫していない。
松岡:「でない」表示がなくならないギリギリの線はどこなのか。それが知りたい。
湯川:それは0か5か、どちらかしかなさそうだ。途中の数字は現実的ではない。
松岡:「遺伝子組み換えでないものを分別」という表示がされるなら、それでもいい。
夏目:「不分別」と「分別」だけでもいいのかもしれない。表現を魅力的なものにする必要はある。中間の区分がどういうものなのか、その内容を知らせる広報は必要。
今村:かつて自分が予想を外した経験があるので怖い。新しい区分をうまく表現するいい言葉があればいいけれど、それがなのでは? 新しい表現に企業が魅力を感じなければ、「遺伝子組み換え不分別」でもいいや、となってしまう危険性がある。そうなればIPハンドリングは崩壊する。
松岡:そもそも表示を信じていない人もいる。輸入品がこんなに多いのに、あれにもこれにも「遺伝子組み換えでない」って書いてあって、そんなのどうせ嘘でしょ、と思っている人も結構多い。
今村:それはそうだが、それでも事業者はIPハンドリングを追いかけて来た。それは「遺伝子組み換えでない」と表示できることにメリットを感じていたからだ。
夏目:表示は内容に対して正確であるべきだ。消費者が「遺伝子組み換えでない」を望んでいるというが、そもそも消費者は「遺伝子組み換えでない」しか目にしていないのだから、本当に望んでいるかどうかわからない。
神林:「でない」表示ができないから、IPハンドリングしない、というふうにはならないだろう。
湯川:α(「遺伝子組み換えでない」と表示していい要件)は検出限界値、「遺伝子組み換え不分別」表示を義務付けるのは5%。
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ここからは安田のコメントです。
消費者庁の事務局が言及した東京都による調査はこちらです。
輸入品の場合、混入率は一定ではなく、0%のときもあれば、4.1%のときもある、というように大きな振れ幅があります。ゼロかもしれないけれど、0.1%の混入があるかもしれない、というようなケースの場合、業者は違反して罰則を科されることを恐れるため、「遺伝子組み換えでない」表示をしなくなることが予想されます。国産の場合でも、問屋を通すとそこでコンタミネーション(汚染)が起きる場合があるといわれています。必ず毎回ゼロにできるのは大豆の契約栽培で国内の産地と工場とが直接結ばれているような場合のみなのではないでしょうか。
しかし、それが国産の大豆農家の売り上げアップにつながるからいい、という見方も一部にはあります。
今村委員の懸念に対し「あの言いようは恫喝だ」「そんなふうになるわけない」という感想も聞かれましたが、わたし個人は共感を覚えました。
5%を超えると「遺伝子組み換え」と表示されるのであれば話は別ですが、現状でが(そして今回の検討会の方針でも)そうではなくて「遺伝子組み換え不分別」です(「遺伝子組み換え」と表示するためにもIPハンドリングが必要ということになっており、IPハンドリングしていないものは一律「遺伝子組み換え不分別」になるのです)「遺伝子組み換え不分別」と「遺伝子組み換えでないものを分別」とでは、印象の落差が小さすぎます。
試しに母に「遺伝子組み換え不分別」「遺伝子組み換えでないものを分別」と書いた紙を見せて、どちらがいいと思う? と聞くと、後者だと言います。理由を尋ねると、とんちんかんなことを言い出すので「これは同じものを別の言葉で表現したわけじゃなくて、中身が別々なんだけど、それがわかる?」と聞くと、「わからない」と答えます。そういう人は他にもいるはずです。字面が似ているのが問題なのです。「遺伝子組み換え」と「分別」という単語が両方に入っていて、「ない」と「不」という否定の言葉が入っているのも同じ。
なので、今村委員の懸念するリスクはあると思うのです。
しかし、それを防ぐ方法はある、と考え直しました。
- 「遺伝子組み換えでないものを分別」という表現をもっと魅力ある別の言葉に置き換える。わたしたちがいい案を考えて消費者庁に送る(たとえば「ほぼ遺伝子組み換えでない」というのはどうでしょう? その他の参考例や送り先はこちらのページの一番下をご覧ください)
- その表現が決まったら、「今まで『遺伝子組み換えでない』と書いてあったものが別の言葉になるけど、中身は変わってないから、心配しなくていいよ」ということを広める。5%以下という基準があっても、現実には大豆製品の混入率は0.1%程度とごくわずかであることも併せて伝える。
- 今まで「遺伝子組み換えでない」と表示した製品を作っていた企業に、「表示制度が変わっても『遺伝子組み換え不分別』の原料に切り替えたりはまさかしませんよね?」と確認の電話をかける。
上記の3種類を実行するだけで十分だと思いますが、もしそれでも「遺伝子組み換え不分別」の原料に切り替える企業が出て来そうだということになったら、わたしがアメリカのNonGMプロジェクトのような民間の認証機関を設立しようと思います。そして3%なり、0.9%なりの基準を設けて、それ以下のものには「NonGM」マークを付与するのです。でも、たぶん、その必要はないんじゃないでしょうか。
きっと大丈夫。できることはいろいろあるし、未来はまだまだ明るい!
あとひとつ、今回の検討会でわかってよかったことは、醤油の表示もちゃんと監視されているということです。スーパーなどでチェックすると、ほとんどすべての醤油の原材料欄に「大豆(遺伝子組み換えでない)」と書いてあり、本当なのだろうか、ということを常々疑問に思ってきました。丸大豆だけでなく、脱脂大豆(油を搾ったあとの絞り滓)ですら「遺伝子組み換えでない」と書いてあるのは、嘘なんじゃないか、という噂は絶えませんでした。しかし、表示義務のない醤油に関しても、ちゃんと表示の違反がないかどうか、行政がチェックしていて、正確さが担保されているのです。これは朗報。みんなに教えてあげたいですね。
いい法律があってもそれが全然守られていないどこかの国とは違って、日本では法制度がかなり厳格に運用されています。その点、日本の行政や業者は意外に信頼できるのです。